私立中高一貫校

知的好奇心を刺激する学びを散りばめ、
新しい社会を創る「有為な人材」を育成

海城中学高等学校

東京大学をはじめとする国内難関大学はもとより、ハーバード大学など海外名門校への合格者も多数輩出する都内屈指の男子進学校として知られる海城中学高等学校。伝統校の名に甘んじることなく推し進めてきた教育改革は、生徒たちにどのような影響を与えてきたのだろう。校長特別補佐の中田大成先生に伺った。

大学合格実績はあくまでも付加価値、生徒が成長する過程が重要

校長特別補佐 中田 大成 先生

進学校の評価で一つの指標となるのが「東大合格者数」だろう。その点、ランキング上位の常連であり、この春も57名を輩出した同校は、揺るぎない地位を確立している1校といえる。とはいえ、校長特別補佐の中田大成先生は、「大切なのは、提供する学びが生徒の成長にどのように作用していくのか。生徒一人ひとりが自分で進路を切り開き、さらには社会に貢献する力を養っていく過程です」と話す。

創立100周年を機に乗り出した大規模な学校改革の目標に据えたのは、「リベラルでフェアな精神を持った“新しい紳士”の育成」。以来「新しい人間力」と「新しい学力」をバランスよく育てるためのプログラムを積極的に導入してきた。

6年前にリニューアルしたホームページでは、それらの取り組みの成果を、生徒の活躍を軸に紹介している。その一例として、昨年の「第65回日本学生科学賞」に応募した共同研究が入選2等となった青山空弥くん、勝山翔紀くん(共に、受賞当時は高2生)の2名に注目してみよう。1957年に創設された同賞は、中学生・高校生を対象にした日本最高峰の科学コンクールで、昨年の大会には全国から約3万2000件の応募が集まった。2人が得た入選2等は上位20~30位に相当する。

研究タイトルは「機械学習を用いた地下水位予測」。石川県手取川扇状地域のほか、富山県氷見市、高岡市のデータを基に、地下水位予測をより容易に行うことを目的として、機械学習の手法であるTransformerを利用。従来の手法に比べて、高精度での予測を成功させた。地学部に所属し、地下水位について研究していた青山くんと、物理部に所属し、プログラミングを用いた研究を得意としていた勝山くんとが、互いの得意分野をうまく融合させたことで得られた成果だといえる。

青山 空弥 さん(左)と勝山 翔紀 さん

生徒が夢中になれる“学びの場”を与えたい

特筆すべきは、この研究が、部活動としての“コラボ企画”ではないことだ。さらに、この2人は、中田先生によると「特に仲良しだったわけでもない」という。だからこそ、彼らが協力するまでの過程に、同校独自の教育システムが作用していくドラマがあった。

まずは青山くん。もともと環境問題に興味があった彼は、文化祭で訪れた地学部の展示の質の高さに惹かれて海城を志望した。同校の地学部は、「水文」「地質」「天文」「気象」の4班に分かれて活動・研究を行っている。青山くんが所属する水文班の研究テーマは「地下水枯渇・水温上昇・水質汚染」。2009年から続けている新宿区立おとめ山公園での湧出量観測では、部員たちは週6日交替で観測に通い、公園周辺にある井戸の水温・水位の自動観測調査も行う。さらに、週末や長期休暇中には各地の湧水スポットを訪れ、知識を深めている。それらの活動に携わるうちに、水環境保全の重要性に目覚めた青山くん。中2の社会科総合学習では、「ダム(1学期)→堤防(2学期)→地下水の法律的問題(3学期)」と探究を深め、卒論のテーマは「水道民営化」を選ぶという徹底ぶりだ。

一方の勝山くんは、物理部だけでなく野球部にも所属し、「パソコンをいじることに興味はあったが、夢中になるまでではなかった」という。転機となったのは中2から参加した「KSプロジェクト」だ。こちらは、各教科のカリキュラムを超えた生徒の主体的な学びを促すことを目的とした放課後プログラムで、英字新聞の制作、史跡を巡るフィールドワーク、理科実験の動画制作など、生徒の興味・関心を引き出し、校外への活動に広げていく講座が複数用意されている。そのなかのプログラミング講座を受講していた勝山くん。講師の先生から「野球が好きなら」と勧められたのが、野球観戦を楽しくするアプリの創作を競うコンテスト「パ・リーグ 学生ベースボールアプリ選手権」への参加だった。制作したのは、野球場のグルメ、いわゆる「球場飯」の情報を紹介するアプリ。その結果、大学生や大学院生を押しのけて、中3の勝山くんが、最年少での優勝を勝ち取ったという。

それ以降、プログラミングにのめり込み、中3社会科のキャリア探究では、みずから東京大学松尾研究室に連絡し、最先端のAI(人工知能)の研究について大学院生に取材するなど、活躍の場を校外へと広げていった。高校進学後もAI開発に必要なスキルを高めるため研鑽を積み、日本ディープラーニング協会(JDLA)のE資格(エンジニア資格)を取得するに至った。

知的な好奇心を大いに刺激する仕掛けが随所に施されているScience Center(2021年に完成)

互いを認め、意見を出し合うことが、より良い結果に

そんな2人が協力するきっかけになったのは、コロナ禍で実施された文化祭だ。オンラインでの公開に切り替わったことで、プログラミングに長けた人材の確保が急務となった。勝山くんに“白羽の矢”を立てたのは、文化祭実行委員も兼務していた当時の生徒会副会長で、KSプロジェクトでお世話になった先輩だった。一方の青山くんは、中1から実行委員会に参加していて、高校では生徒会の会計を務める一方、サークル管理部を担当していた。

新たな関わりを持ち、いろいろと話すようになった2人。「膨大なデータを扱うシステムを開発したい」勝山くんと、「代々受け継がれてきた水質データを活用につなげたい」青山くんとの利害関係が見事に成立。前述の応募へとつながっていく。

ホームページで紹介するにあたり、2人に聞き取りを行った中田先生によると、「青山くんは、地域の人々との交流をはかりながら、地道にデータを集めることを厭わない研究者タイプ。かたや勝山くんは、最新の技術を次々と導入し、完成したものを活用へと転じたい開発者タイプ。性質もめざす方向性も異なる2人なので、共同研究を形にするまでには、衝突や葛藤もあったようです」とのこと。

そんなときに役立ったのが、「プロジェクトアドベンチャー」や「ドラマエデュケーション」で養った協働のノウハウだという。「社会にとって有為な人材」となるために必要な資質は、「新しい人間力」と「新しい学力」だと同校は考えている。「新しい人間力」とは、対話的なコミュニケーション能力とコラボレーション能力を兼ね備えた力。国際化が急速に進む時代、異なるバックボーンを持つ人同士が関わって生きていくには、互いに認め合い、互いの長所を引き出し合うことが不可欠だからだ。そのため、中学では、成長段階に応じた体験型のプログラムを充実させてきた。

プロジェクトアドベンチャーは、「尊重・信頼・協力」をキーワードに、立木や丸太、ロープなどを使ったアクティビティーにチームで挑む中1・2対象のプログラム。コミュニケーション能力、コラボレーション能力、創造力を高めながら、人間として成長するための「気づき」を得ることを目的としている。一方のドラマエデュケーションは、演劇の手法を用いた教育プログラムで、中1の「安全ワークショップ」、中2・3の「コミュニケーション授業」に導入されている。ある状況や場面下に自分を置き、登場人物の身になって感じたり、役割や立場を入れ替えて考えたりすることで、他者の心を思う想像力が鍛えられるという。最終的にはグループで演劇を創作・発表へと展開。仲間と協力して“作品”を創り上げていく過程で、対話的コミュニケーションや効果的なプレゼンテーションの方法も学ぶことができる。

力を試すための挑戦が、進路を開拓していく原動力となる  

今年3月に開催された生態学会大会(左)、日本地学オリンピックで最優秀賞(右)を受賞した生徒たち

男子を伸ばすべく考えられたカリキュラム、生徒主体で行われる委員会・部活動と学校行事。これら学校生活のすべてが糧となって、海城生は育っていく。学校ホームページでは、青山くんと勝山くんのほかにも、さまざまな形で活躍する生徒たちが紹介されている。国際数学オリンピック、国際地学オリンピック、模擬国連大会などでの受賞、名門数学雑誌への論文掲載など、輝かしい成果が並んでいるが、彼らも学校生活のなかで自分の可能性に気づき、力を試す機会を得て、果敢に挑戦した結果であることは想像に難くない。大規模な学校改革から30年を経て、社会を変えていくための挑戦をいとわない「国家社会に有為な人材」の育成は、着実に進んでいる。