私立中高一貫校

学校で学ぶ意義を問い直し
物事の本質に迫る教育を実践

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校

“小さな学校の大きな挑戦”をスローガンに、先進的な教育プログラムに果敢に挑み続けている多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校。「少人数できめの細かい指導」「本物から本質に迫る教育」「主体性と協働性を育む」の3つの教育理念を堅持しつつ、しなやかに変化し続ける学校をめざしている。今回のコロナ禍に際しても、そのしなやかさを遺憾なく発揮。学校の存在意義という根源的な部分から教員全員で議論を積み重ね、学校でしかできない教育、多摩聖にしかできない教育の実現に向けて、新たな歩みを始めている。

学ぶことの意味を考えさせる オンリーワンの授業をめざす

石飛 一吉 校長

多摩聖では2020年度から学校改革をスタートさせる予定だったが、突然のコロナ休校と、現在も続く活動自粛により、当初の計画が崩れてしまった。一方で、子どもたちから学ぶ機会を奪わないようにと、多くの学校がオンライン授業へと突入していく。同校もいち早くオンライン授業の導入を検討したが、全面的な導入は見送った。オンラインで結んだのは、ホームルームと、6時限目の後に実施されているSST(Self-Study Time)と呼ばれる25分間の自習、そして自習時に質問に答える「質問コーナー」だけとし、教科教育は郵送教材による通信教育とした。その理由を、石飛一吉校長は次のように説明する。

「大手予備校や教材会社などはすでにいくつものオンライン教材を開発しており、その教材を使って教えるテクニックも含めて商品化しています。我々教員がにわか仕込みの知識でオンライン教材を開発しても敵うわけがありません。もちろん、単に教科書を解説するだけなら、こうしたオンライン教材を使った方が効率的です。しかし、それでは学校の存在意義がなくなってしまいます。本校がオンライン授業に踏み切るためには、もう一度学校という教育の場が果たす役割、教員が生徒と相対して授業を行う意味について、しっかりと議論し、生徒や保護者にも理解していただくことが必要だと考えたのです」

教員たちは、なぜ学校が必要なのかといった根源的な問いから議論を積み重ねた。その結果、学校では、学校にしかできない「人間教育」を行うべきだとの結論に達した。

「人間教育の観点からいえば、学校の授業は単なる知識を教える場ではなく、学ぶことの意味を生徒に考えさせる場でなければなりません。そうした場にするには、その教員にしかできない授業、オンリーワンの授業にする必要があります。教員には、極端な言い方をすれば、教科書を捨ててもその先生にしかできないような話を生徒にしてもらうようにお願いしました」(石飛校長)

教科という切り口を通して、物事のトータルな理解を促す

こうした授業は、生徒が学びの主体となるための種まきと捉えることができる。従来型の授業では、教科書のエッセンスを伝えることが教員の役割だったが、同校では、教員が教科書の記述の基礎になっていることに直接アプローチしていく授業を展開している。

たとえば、石飛校長が組み立てた中学2年用の授業では漁業を取り上げた。生徒は県別の水揚げ量などを覚えても、魚の現物を見たこともなければ、具体的にどのように漁をするのかも知らず、漁網の形すら絵に描けない。教科書にも載っていない。そこで、授業では、実際の魚や、漁業の様子など具体的な漁をイメージできるような工夫を行い、水揚げ量の数字に実感をもたせた。

「今年度は、おにぎりの科学についての授業を行いました。コンビニのおにぎりからはいろいろなことを学べます。添加物の話や、物流の話、食生活への影響の話など、理科や社会科、家庭科、保健体育といったいろいろな教科の切り口から考えることができます。最終的には生徒が頭の中でトータルに理解していくわけですが、こうした学びの種をまくようなアプローチを通して、本校の教育の3本柱の1つ『本物から本質に迫る教育』を実現しようとしています」(石飛校長)

個別課題や特別講座などで、生徒の特性に応じた指導を

生徒は一人ひとり興味関心や能力が異なるが、従来の学校では、そのことをあまり考慮してこなかった。もちろん、授業中は生徒の理解度に応じて多少の調整は行われるが、課題は全員同じものが出されるのが普通だ。同校ではそこも見直す計画だ。普段の授業の宿題や夏休みの課題などは、生徒の特性に応じて違ったものを出していくことになるという。

「能力別の特別講座も設けます。英国数の各教科上位30人を『アドバンス講座』、残り90人3クラスを『ベーシック講座』とし、7月の第1週で終わる1学期の期末考査後は、夏休みまでの2週間と夏休みの4日間を、これらの特別講座で学びます。この特別講座は学期ごとに設ける予定です」(石飛校長)

生徒の特性に応じて課題を出す方針は、オンライン授業でも変わらない。今年度も2週間ほどオンライン期間を設けたが、生徒や保護者に授業方針を周知した上で、全面的なオンライン授業を展開した。通常は50分授業を平日6時限、土曜4時限行うが、オンライン授業では、教員からの発信は最大25分に限定。残りの時間は生徒が各自の必要に応じてノートをまとめたり、宿題をこなしたりする主体的な学習に当てた。教員はその様子を観察し、個別に適切なアドバイスを行うことで、多摩聖らしいオンライン授業とした。

知識を体験に結びつけた上で、見識へと昇華させる探究学習

「A知探Qの夏」のボクシング講座の一コマ。鏡に向かってパンチを繰り出すことで、自分を客観的に見つめる訓練にもなる
学んだ内容を全員で書き出し、アウトプットすることで知識・経験の定着を図る

多摩聖が進める、学ぶことの意味を考えさせる教育、本質に迫る教育、生徒の特性に応じた教育は、次年度から高校で必修化される探究学習「総合的な探究の時間」にもスムーズに結びついていく。すでに同校では2018年度から、中1〜高2まで学年を問わず参加できる「えいたんきゅうの夏」と題する体験型の探究講座を実施してきており、探究する喜びを知り、探究する姿勢を身につける上で大きな成果をあげてきた。高校での探究学習はこの「A知探Qの夏」をベースに、内容をよりブラッシュアップしていくという。

「ある程度の知識は大切ですが、それよりも大切なのは、その知識が体験と結びつくことです。世の中に出て何かをする、世の中の人と一緒に何かをすることを通して、知識と社会の関わりを認識し、社会に対する見識へと高めていくことが重要で、本校の探究学習では、そこをめざしています」(石飛校長)

探究学習の前段階として、同校では中学3年で4000字の卒業論文を書くことになっている。テーマは自由だが、全校の教員が手分けして指導を行うことで、自分で調べて表現する経験を積む。それを踏まえて高1の探究学習では、より本格的な論文の書き方や効果的なプレゼンデーションの方法なども含め、探究学習の基礎を固めていくことになる。

高2では修学旅行が探究学習の主な舞台になる。これまでは広島・長崎を中心に、生徒が行き先を選択できたが、今年度からは全員が沖縄の先島諸島(宮古島、石垣島、西表島)を訪れる形に変更する。

「沖縄は日本の周辺ですが、先島諸島は沖縄のなかでも周辺にあります。離島は産業や労働を考える上でも、地勢学的な意味を考える上でも重要です。個人やグループでテーマを持ち、島の人へのインタビューやフィールドワークを行い、島の人の立場に立ってSDGsについて考えていくことができる人を育てたいと思っています。調査結果は報告書にまとめて発表するだけでなく、現地にフィードバックし、その結果を次の学年の課題につなげるなど、継続的に先島諸島と関わっていきたいと考えています」(石飛校長)

探究学習の本格化に合わせて、ICT教育も拡充する。多摩聖らしいオンライン授業が確立したことで、対面授業となった今でも、授業中にタブレットを使った教育を行うことが増えてきた。今後はオンライン教育と対面授業の両立も考えており、次年度以降の高1は全員がノートパソコンを購入し、授業や自習、探究学習に活用することになる。

「ノートパソコン導入に際しては、基本的なアプリはセットアップした状態で提供し、セキュリティはしっかり守るものの、生徒がどんなアプリを導入しようが、どう使おうが一切制限をかけないつもりです。多摩市のICT教育ボランティアなどに協力をいただき、リテラシー教育をしっかりした上で、自らの責任で自律的にICT環境を使いこなす力を身につけてほしいと思っています」(石飛校長)