WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

「知と好奇心の種」に刺激され、
生涯、学び続ける力を育む未来型教育

海城中学高等学校

伝統校の名に甘んじることなく、30年以上前から学校改革を推し進め、東京大学をはじめとした国内難関大、さらにはハーバード大など海外名門校への合格者も、多数輩出する海城中学高等学校。
技術革新が進み、正解が一つではない時代を生きる子どもたちに、「一生、学び続ける力」を育てる教育の真髄を、校長特別補佐の中田大成教諭に伺った。

デジタル教材の制作など、先進的な取り組みを支える海城のSTEAM教育

校長特別補佐 中田 大成 先生

ICTの広がりと共にデジタル教材への注目が集まるなか、海城中学高等学校が作成した2つのデジタル教材が、2021年3月に経産省の「未来の教室『STEAMライブラリーVer.1』」に公開された。

普通高校として唯一、教材制作事業者として採択された同校は、その「未来型の教育」が評価され、「防災」と「生物多様性」に関する2教材を作成。日本航空や東京理科大などと並んで、多くの教育の現場が活用するデジタル教材をつくり上げた。

こうした先進的な取り組みの基盤となっているのが、共生のためのコミュニケーション能力や協働の力(新しい人間力)と、課題を設定して必要な情報を収集し、分析・熟考して、問題を解決する能力(新しい学力)だ。中学校の社会科総合学習では、中3時、3年間の同学習の締めくくりとして、各人でテーマ設定をして原稿用紙30〜50枚の卒業論文を全生徒が書き上げる。

こうした探究学習が日常の同校では、さらに2017年から教科や学年の枠を超えたゼミ形式の特別講座「KSプロジェクト」を開始。特化したテーマに対して生徒たちが学年の枠を超えて集まり、とことん探究していこうという講座で、テーマは、プログラミングや英字新聞制作、フィールドワークで史跡を巡る講座、理科実験の動画制作など多彩だ。いずれの講座も、生徒の興味関心をより研ぎ澄ます深い学びであると同時に、社会に開かれたオープンな学びであることを特徴としている。「STEAMライブラリー」教材開発も、「KSプロジェクト」のSDGsゼミから改称した「イマ・ゼミ」のボランティア活動などを発端に、教材化へとつながった取り組みだ。

「校内に留まらない活動では、本来、結びつかないようなものがつながることで、化学反応が起こり、新しい価値が生れていくのです。これこそがSTEAM教育であり、異分野融合イノベーションだと考えています」

STEAMとは、科学・技術・工学・芸術(人文科学一般)・数学の英語の頭文字から取られた、未来社会に価値を生み出す力を養うための総合教育のことで、教育改革における世界共通のキーワードとなっている。

KSプロジェクトの「イマ・ゼミ」で2019年に実施した八王子市でのボランティアの様子。
こうした生きた学びをきっかけに、探究を深めていく生徒も多いのが、同校の特徴だ

これからの社会で求められるのは、これまでにない新しい価値を創り出していくこと

伝統の名に甘んじることなく、常に改革を進める同校が現在、力を注いでいるのが情報教育だ。各教室には電子黒板機能付きのプロジェクターが配され、高速インターネット接続システムが充実。2015年から進めてきたICTインフラが完成したことを背景に、昨年度途中から中学校では全員がMacBook Airを所持。中学でICTリテラシーを身につけるところから始め、高校での本格的なプログラミング教育につなげていく取り組みを進めている。

「中学での情報の授業は、「技術・家庭」のなかで行われます。しかし、技術の教師に突然、情報の授業を高いレベルで実施するようにいっても、一朝一夕にできるものではありません。そこで本校では、デジタル教材を外部企業と協働で開発。入門編、基礎編で基本的なICTリテラシーを身につけ、プレゼン用資料の作り方から画像・動画編集などを段階的に学ぶシステムを構築しました」

授業には、担当教諭のほかにICTに特化した2人のTA(ティーチング・アシスタント)を配置し、きめ細かい対応を実施。6年間をかけて、これからの時代が要請する情報関連の知識や技能を身につけていく。さらにICTラボでは、常駐する3名のICT支援員がハード・ソフトの両面からサポートする。こうした二重、三重ものバックアップ体制が、同校の先進的な取り組みを支えている。

さらに特徴的なのは、美術でもICTを使った創作活動を行う用意があることがあげられる。

「美術の教員の言葉ですが、『どのように描けばいいのか、美術では正解は永遠にわからない、だから創意工夫を繰り返す』と」

 技術革新が進み、正解が一つではない時代を生きる子どもたちには、「進みながら試行錯誤を繰り返し、最適解を求める力こそが重要」と、中田先生は力を込める。

「これからの社会で求められるのは、複雑なパラメータが絡み合うなかで、これまでにない新しい価値を創り出していくことです」

 「こうした絶対的な正解のない世界は、彼らにとっては相当、居心地が悪い状態なのだ」と、中田先生は続ける。

「でも、その『居心地の悪さ』を超えて、頭と手を動かすことに価値があるのです。『とりあえずやってみよう』というトライが、未来のクリエイティビティを後押しするのです」

中学生全員にMacBook Airを配布。遠隔学習にも活用される

学際的な学びのコンセプトが反映された、新しい知の拠点となる「新理科館」の完成

また、2018年にはJAXAとの共創事業にも参画し、教材開発に実証協力校として高校で唯一、関わった。宇宙飛行士の資質・能力の評価表を活用することで、かねてより課題だった「非認知スキル」の評価ができるようになり、自らの学習や活動をきめ細かに振り返ることが可能となった。さらに、2020年度からは、日々の活動や学習を記録する「eポートフォリオ」と、自身の変容や成長の自己評価を行う「キャリアパスポート」を組み合わせたプログラムも実施。6年間を通して常に「過去・現在・未来の自分」と向き合い、「何が大事か」、「何がしたいか」を問い・考え続ける工夫が凝らされている。

さらに9月には、新たな知の拠点となる新理科館も完成する。

「内部は教科の垣根を超えて、各実験室が見通せるような作りにしました。また建築工学に興味のある生徒のために、天井やエレベーターの壁面をガラス張りにして構造が見られるような工夫も凝らしています」

こうした教科ごとに分断しない仕掛けは、学際的な融合を容易にする。こうして旧来の探究型の学びに、ICTリテラシーやプログラミング的思考が加われば、同校のめざす「リベラルでフェアな新しい紳士」の人物像は、「科学的思考力」も兼ね備えた紳士へとふくらむことであろう。

「何かを知っている」から、知識を活用して「何ができるか」を問う教育へとパラダイム・シフトが求められている現代。

「だからこそ私たち教師は、子どもたちに知や好奇心の種を蒔き続けているのです」

「知と好奇心の種」は、生徒たちの学びを水と肥やしに芽吹き、枝葉をすくすくと伸ばしている。

2021年9月に完成予定の新理科館(完成予想図)。
これまで4室だった実験室は9室となり、階段式の講義室のほか、屋上には植栽や太陽光パネルも設置される

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