WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

「帰納法的手法」で考え抜く力を育成

獨協埼玉中学高等学校

獨協大学グループの併設校として、伸び伸びとした教育で知られる獨協埼玉。入学段階でコース分けは行わず、学校での学びを通して、自ら考え、判断する力を磨き、自分の力で進路を切り開いていく指導に特色がある。英語教育や国際理解教育にも力を注いでおり、獨協大学への多彩なルートのほか、難関国公私立大学を含む幅広い進路に対応している。

考えて書く学習を徹底し、基礎学力を固める教育を実践

中高の6年間は、心身ともに不安定な時期を経て、しっかりとした価値観を身につけていく重要な時期だ。だからこそ、同校では「自ら考え、判断することのできる若者を育てる」を教育理念に掲げ、時間をかけた丁寧な教育を推し進めている。

入学段階では、中学も高校もコース分けを行わない。仲間と共に学び、悩んでいく経験を通していろいろなものを吸収し、自分の力で進路を切り開いていく力を伸ばすことの方に重点をおいているからだ。

「全員がフラットな状態から学びはじめ、部活動や課外活動などを通して、いろいろな自分を発見してほしいと思っています。学校を大いに楽しんでほしいですね」と語るのは、入試対策部主任の酒井直樹先生だ。

教科学習においても、じっくりと基礎学力を養成することを重視している。とくに中学段階では、「帰納法的手法」による学習を徹底させている。理科の実験に代表されるような、観察した事実や実験結果から、何が起きているのかを考え、法則性を見出していくような学習だ。

「実験では失敗もありますが、それも含めてレポートにまとめて振り返ることで、学びになっていくのだと思っています」(酒井先生)

数学では、答えを導き出していく過程を重視しており、中学の入試問題においても考え方や式を書くように求めている。国語では、「文章表現」の授業のなかで、両親や恩師に手紙を書く練習を行う。このように、正解や重点ポイントを教員が先に教えるのではなく、生徒自らがそれらを発見できるように、学ぶプロセスを重視する教育で、基礎学力を固めていくわけだ。

「なぜそうなるのか」、「どうしてこの結果になるのだろうか」と試行錯誤し、思考力や想像力を育てる帰納的手法

田植えから福祉施設のボランティアまで体験活動を重視

プロセス重視の教育の一環として、体験活動にも力を入れている。中学においては総合的な学習の時間を活用して、教科横断型の教育を行っている。

中1では、正門前に借りている田んぼをフィールドに、1年間かけて田植えから稲刈りまでを行う。イネの生育を観察することは理科の領域だが、米の自給率について考える社会科的な学びも含まれ、最終的に各自でレポートをまとめることになる。

中2になると、世の中の様々な職業について知る活動を行う。生徒の保護者も含めた多彩な職業に関する講演を聞くことなどを通して、進路意識を刺激していく。

中3では、福祉について考える活動を行う。白杖体験や車椅子体験を通して、高齢者や障害を持っている人たちの身体感覚を経験するほか、夏休みにはボランティア活動も行う。

「学校ではボランティア先の斡旋は一切行いません。生徒は自分で近所の保育園や老人ホームなどの福祉施設を調べ、アポを取り、日程や内容を決めて実践し、活動報告をまとめています」酒井先生)

こうした体験活動は、高1の環境学習、そして高2の平和学習(修学旅行)へと続いていく。平和学習では、沖縄について1年間調べ、戦争体験者の話を聞くことになる。

「平和について考えるだけでなく、沖縄が置かれている状況を通して、グローバリズムや経済格差の問題などにもリンクしていきますから、より深い学びの場になっていると思います」(酒井先生)

田植えから 施肥、除草、稲刈り、そして収穫まで毎日のように観察。一年を通して幅広い学びを行う

“英語=勉強”のイメージを払拭し、英語嫌いを減らす工夫

「語学の獨協」ならではの充実した語学教育プログラムも魅力の1つだ。英語の授業時間数は中高ともに多めになっており、ネイティブ教員だけで教える「英会話」の授業も、中学では週2時間(中3は1時間)ある。

「ネイティブ教員が多いため、校内で授業時間外に気軽に話しかけることができます。英語はは本来コミュニケーションのためのツールですから、できるだけ勉強としての英語から離れてほしいと思っています」(酒井先生)

その代表的な試みが、中2で実施する「アメリカン・サマー・キャンプ」だ。河口湖畔のホテルで行われる2泊3日の宿泊行事で、生徒5〜6人に海外の大学生講師が1人つき、朝から寝るまで英語漬けの日々を過ごすものだ。

「日常生活の中で英語を使うことで、英語は勉強するものではなく、コミュニケーションを行うツールだと認識してもらうためのプログラムですから、文法などを細かく言うことはありません。少しでも意思疎通できる喜びを味わうことで英語嫌いを減らしていきたいと考えています」(酒井先生)

このほか、中3から高1にかけては「多読」、高校では「スピーチコンテスト」「エッセイ」「エンパワーメント・プログラム」など、様々なプログラムを受講することが可能だ。

さらに、中学ではニュージーランドの姉妹校との間で相互に10日間のホームステイを行うほか、高校ではサンフランシスコで3週間の語学研修を行っている。オーストラリアやドイツにも姉妹校があり、隔年で相互訪問を行うなど、国際感覚を磨く機会は数多い。

英語では専任ネイティブスピーカー による徹底指導を行う
中2で実施する「アメリカン・サマー・キャンプ」では、2泊3日の間アメリカ人と一緒にMy StoryやCamp Skitといった活動を英語のみで行う

高校在学中に大学教育が受けられる「獨協コース」

同校は獨協大学の併設校であり、希望者は全員獨協大学に進学できるが、実際に進学するのは例年2割程度で、多くの生徒は国公立大や難関私立大を目指している。そのため、高2からの授業では、そうした進路に対応した対策がしっかり行われている。

なお、獨協大学への進学には、「単願推薦」「併願推薦」「獨協コース」と複数のルートが用意されている。このうち「併願推薦」は、獨協大学への入学権を持ったまま、他大学を受験できるもので、難関大学を目指す生徒に好評だ。

ユニークなのが「獨協コース」。獨協大学への進学を前提としたもので、高3でこのコースに所属すると、通常の授業が半減し、残りの時間で大学が指定する本を読んだり、卒業論文の執筆を行ったりすることになる。

「卒業論文の指導は、大学の教員から直接受けることになります。大学での学びに直結しており、獨協大学を目指す生徒にとっては満足度の高い制度といえます」(酒井先生)

獨協大学には理系学部がないため、理系の生徒は外部受験にならざるを得ないが、文系の生徒にとっては様々な選択肢が可能な進学ルートが用意されているといえる。

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今年度は、ここで紹介してきた学校行事のほとんどを中止または延期せざるを得なかった。だが、同校では「学びを止めない」を合言葉に、4月以降、印刷物の配布と並行しながら、動画配信による授業を精力的に行ってきた。

「おかげで、新入生もスムーズに本校の学びに接続できたようです。この経験を生かして、今後は対面授業を基本としながらも、教科や単元によってはICTを活用したより幅広い学びの世界を提供していきたいと考えています」(酒井先生)