WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

音楽のチカラで多彩な進路に飛び立つ

国立音大附属中学校/高等学校普通科・音楽科

国立音大学附属中学校・高等学校(国音)には、音楽を専門的に学ぶ音楽コースや音楽科があるだけでなく、教科学習に力を入れた文理コースや普通科が設置されており、音楽の道を志す生徒の中にも、医学部をはじめとして幅広い学部系統に進学する生徒もいる。音楽を学ぶこと、あるいは音楽のある環境に身を置くことが、こうした多彩な進路を可能にしているのだ。

左から音楽部長の五十嵐稔先生、ピアノ担当の菊地珠里先生、副校長の滝澤秀先生

文武両道ならぬ“文音両道”のバランスのよい教育

音楽大学の附属校では、音楽に特化した教育か、音楽と関係ない教育かに分かれる場合が多い。ところが、国音では、中学に音楽コースと文理コースを設置し、高校に音楽科と普通科を設置するなど、両者を備えている。

中学の音楽コースは、実技試験のある「音楽実技プログラム」と、実技試験のない「音楽準備プログラム」を設置している。準備プログラムは、楽器経験がなく、これから始めようと考えている生徒も入れる音楽教育のプログラムだ。また、文理コースは学科試験のみで入学できる。

「音楽の嫌いな人が本校を選択することはないと思いますが、将来の進路はいろいろであっていいと思います。中学では進級時にコースを変更できますし、高校進学時にも音楽科か普通科を選択できます。こうした柔軟なシステムで、どんな進路にも対応できる点が本校の最大の魅力だと思っています」と、語るのは滝澤秀副校長だ。

中学では音楽コースと文理コースの生徒が混合クラスになっており、高校では音楽科と普通科はカリキュラムも別である。校内には常に音楽が聞こえている。この音楽にあふれた環境は、すべての生徒の成長にプラスになっている。

幼いころから厳しいレッスンを続け、本番の舞台に向けて地道に努力している音楽コースや音楽科の仲間たちの忍耐力は、文理コースや普通科の生徒にとっていい刺激になるし、音楽を志す生徒たちにとっては、文理コースや普通科の生徒たちの幅広い分野への興味関心が、音楽の幅を広げてくれるのに役立つ可能性があるからだ。

中学では入学後もコース変更や主楽器変更が可能で、一人ひとりの未来を育む柔軟な教育体制を行っている

一人ひとりの生徒に向き合う指導で、多彩な進路を実現

高校進学時には、音楽コースから音楽科へ進学する生徒が大半だが、普通科を選択する生徒もいる。東京薬科大学6年のAさんもその一人だ。

「3歳からピアノを習い、音楽があふれる環境で学びたいと入学したのですが、中学2年のときに薬剤師になりたいと思うようになり、高校では普通科に進学しました。自分の考えたことを相談すると、親身になって向き合ってくれる環境があったからこそ、夢の実現に向けて歩めているのだと思います」

一方、音楽コースから音楽科に進んでも、別の道をめざす生徒もいる。東邦大学医学部5年のBさんはそのケースだ。

「ピアノの先生をめざしていましたが、中学3年のとき祖父と祖母を相次いで亡くし、何もできなかったことが悔しくて、医師を志すことにしました。ただ、ずっと目指してきた音楽の道も捨てきれずに、音楽科に進みました」

2人とも、音楽に導かれて国音に入学したものの、結局は音楽とは別の道を歩むことになった。それが可能なのは、同校が少人数教育を基本としており、一人ひとりに寄り添った進路指導を徹底しているからだ。

音楽科の生徒は、毎週個人レッスンがあるため、音楽の技術に関してはマンツーマンの指導が行われているが、普通科でもそれに相当する指導が行われている。一般入試で難関大学をめざす特別進学コースでは、外部の専門家を「学習コーチ」に任用し、毎週1回、学習スケジュールの立て方などを指導しており、AOや推薦入試など学校推薦型選抜や総合型選抜での進学をめざす総合進学コースでは、面接や小論文指導を繰り返して、個別に合格に向けた指導を行っている。

もちろん音楽の道に進む場合は、音大附属のメリットを最大限に生かすことができる。

「普通科の生徒も、2割程度は、国立音大の音楽教育やコンピュータ音楽などの専攻に内部推薦で進学しています。音楽の追究の仕方を広げられるわけです」(滝澤副校長)

普通科では、教員が生徒一人ひとりの理解度を把握し授業に臨む。それぞれの課題をピンポイントで補強できるため、確実に実力を養成する
音楽科ではハイレベルな音楽理論や充実した音楽授業だけではなく、興味関心や進路希望に合わせて多彩な授業選択ができる

音楽を頑張ることが社会で求められる力に通じる

音楽の専門教育については、国音には長い伝統と実績がある。音楽を習うことに対して世の中は好意的で、子どもに音楽を習わせたいと思っている保護者は多いはずだ。

なぜ、音楽を学ぶことがいいのか。ピアノ担当の菊地珠里教諭は、次のように説明する。

「音楽を続けるには、発表会や演奏会など、一発勝負の厳しい本番に向けて、毎日、コツコツと努力していかなくてはなりません。そうした生活スタイルが身につくことで、物事をやり抜く力が鍛えられる面があるからです」

また今、社会では個性のある人が求められている。しかし、個性は出そうと思って急に出せるものではない。演奏も同じだ。自分の個性を出すには、自分のやりたいこと、こだわりたいことについて常に考え、それを表現する仕方を訓練する必要がある。音楽を続けることは、個性を磨くだけでなく、更にそれらをしっかりと伝える表現力、発信力を身につけることにもつながっている。

「本校ではアンサンブルを積極的に行っていますが、アンサンブルでは自分を主張しながらも相手と協調しなくてはなりませんし、相手の感じていることに共感する能力も必要になります。生徒たちはアンサンブルをきっかけに、人との関わりで必要な協調性やコミュニケーション力を伸ばすことができています。」(菊地教諭)

このように、生きる力やコミュニケーション力、仲間と協力して問題を解決する力など、近年の教育改革で謳われていることは、音楽教育にすべて含まれている。

「大学生活でも計画を立て勉学に向かうことができているのは、音楽で培ってきた力があるからだと思います」(Aさん)や、「音楽で人前に立ってきた経験は、医学部での発表やディスカッション形式の授業でも役立っています」(Bさん)といったコメントは、音楽で身につけた力が、どの世界でも役立っていることを意味している。

第一線で活躍する約60名の教員がおり、個々の達成度に応じ、きめ細やかな指導を行う

音楽の言語化を通して、構築力やプログラミング能力も育てる

国音の音楽教育は、さらに進化しようとしている。一般的に、音楽は感覚や感性がものをいう世界だというイメージがある。そういった面があることは否めないと前置きした上で、音楽部長の五十嵐稔教諭は、次のように解説する。

「感覚や感性のみに頼っていると、必ず壁にぶつかります。不調に陥ったときに、自分で解決する術がないからです。ですから、本校では『音楽の言語化』をテーマに掲げ、作曲家の狙いは何か、それを自分はどう解釈したのか、それをどのように表現しようと考えたのかを、必ず言語化させるような指導を行い、構築力やプログラミング能力を育てていこうとしています」

音楽を学んだ人のすべてが演奏家になるわけではない。一般企業に就職する人も多い。その場合にも、音楽で培った構築力やプログラミング能力は大いに役立つ。

「将来的には、音楽が専門家だけのものでなく、一般の人たちが持っている基本的な素養、いわば一般教養のようなものになってほしいと考えています。とくに中学の音楽準備プログラムはそうあってほしいと願っています」(五十嵐教諭)

音楽も学科の教育も両方ともしっかりやる国音は、演奏家の卵だけでなく、未来の教養人の卵も育成しようとしている。

音楽に囲まれた環境で、知性を育て、感性を磨く