WILLナビDUALアーカイブ 私立中高一貫校

自主的な課外活動が
「世界大会」出場の常連に

普連土学園中学校・高等学校

新渡戸稲造と内村鑑三の助言のもと、キリスト教フレンド派の人々によって設立された普連土学園中学校・高等学校。自ら考え、伝え、行動する姿勢の育成に力を入れ、個々の可能性を広げる教育を実践している。国際的なロボット競技会で毎年優秀な成績を収めている自主的な課外活動「フレンズ・ファブ」について、広報部長の池田雄史先生、理科担当の加藤芳幸先生に聞いた。

ロボット製作と研究課題発表が、評価の対象となる競技会

生徒一人ひとりに目を向けた、個性を尊重する教育を実践している普連土学園には、特色ある課外活動がいくつかある。「Friends Fab」(フレンズ・ファブ)もその一つで、中3から高2までの希望者が放課後や土曜日などに集まり、プログラミング、ロボット製作、3Dプリンタを活用した電子工作などに取り組んでいる。このフレンズ・ファブのメンバーで構成される普連土チームが、*国際的なロボット競技会「FIRST® LEGO® LEAGUE(FLL)」で、毎年のように好成績を収めている。

FLLは、青少年を対象に世界98カ国、4万チームが参加する世界最大規模のロボット競技会。コマンドをプログラミングした自律型ロボットでミッションのクリアを目指す「ロボットゲーム」と、毎年与えられる社会的テーマに沿った3分野にわたる研究活動報告(プレゼンテーション)の総合評価で競う。9歳から16歳のメンバーが、2名から10名のチームを組んで参加する。普連土チームは昨年、国内大会で3位となり、トルコで開かれた世界大会に出場。今年も全国から予選を通過した36チームが集まった国内大会で3位入賞を果たし、世界大会出場を決めていた。

フレンズ・ファブは活動日が決まっているわけではない。生徒それぞれが、学習の合間などの比較的余裕のある時間を見つけて、集まってくる。有志による課外活動という位置付けなので、他のクラブに所属している生徒も多い。FLLの出場を目指す生徒ばかりではなく、ひたすら電子工作に取り組む生徒もおり、自分の興味・関心に合わせて自由に活動している。

一見、コンピューターに興味がある理系女子の集まりかと思うが、実はそうではない。年度によっては半数以上を文系の生徒が占めることも珍しくないという。理系に特化したメンバーでもない普連土チームが、なぜロボット競技会で優秀な成績を挙げることができるのか。その理由を「FLLという大会の性格にもある」と加藤先生は説明する。

「FLLは設立の理念と教育的な狙いから、単に専門知識のレベルの高さを競うというより、課題解決のために自分たちで考え、行動することに主眼を置いています。世界共通の社会問題をテーマに、プレゼンテーションを重視し、さらに協働が必要なチーム競技としているのもその表れかと思います」

フィールド上でロボットを動かす様子

活動内容は生徒自身が判断して決めていく

フレンズ・ファブは「自由」に、そして「自主的」に活動している。具体的な活動内容は生徒自身が決める。もともとは、理科教員が放課後や長期休暇期間中に初心者向けに開いた教養講座の一つだった。生徒たちの興味が広がり、探究心が芽生えると、自主性を重んじて顧問が口を出すことはほとんどないという。

毎年夏にFLLのテーマが発表されると、チームで活動方針を話し合い、ロボット製作と3つの研究活動という、それぞれの大まかな役割分担を決める。その後、全体ミーティングを行って意見を出し合い、チームとしてのまとまりを図っていく。専門的で分からないことがあれば、大学の研究室や知見を持つ企業を訪ねることも、プログラミングの講師を招いて話を聞くこともある。そうした外部へのアプローチも、自分たちで調べ、考え、行動に移す。

「相談されればアドバイスをする程度で、こちらからあれこれ指示をすることはないので、生徒自身が、自分たちの作りたいものを一生懸命作っています」と加藤先生は笑う。

ロボットのプログラミングは、アイデアが重要な要素の一つとなるため、一人ひとりの思考力や科学的な視点などを出し合う必要がある。また、研究課題のプレゼンテーションはチーム全員で行わなければならず、しかも質疑応答の時間が設けられているため、チームワークが大切だ。役割分担をしながら、チーム全体のパフォーマンス力を上げていくのは、そう簡単ではない。

今年のチームは、昨年世界大会に出場した先輩たちの姿に大いに刺激を受けたという。「初めて国際大会に出場したのは2017年のデンマーク大会。今では、先輩から後輩へ受け継がれる、文化のようなものが芽生えてきていると思います」と、学年間のつながりを池田先生は指摘する。年齢制限で大会に出場できなくなっても、大会運営のボランティアとして関わり続ける生徒もいるそうだ。

また、自主的な活動を可能にしている背景の一つとして池田先生が挙げるのは、自ら調査・研究をする探究型の進路プログラムの存在だ。普連土学園には、学年ごとに「地域研究レポート」「社会研究論文」「学問分野研究」「自由研究論文」など、リサーチとプレゼンテーションを行う学習プログラムがある。学校が育てようとしている、考え、調べ、発表をする力は、FLLが求めているスキルと通じるところがあるのだ。


6月にブラジルで行われる世界大会に出場予定だった普連土学園チーム。今年は残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響で中止に

楽しみながら取り組む姿勢が好結果を生み出す

池田先生と加藤先生が口をそろえて指摘するのは、フレンズ・ファブの生徒たちが「活動を楽しんでいる」ということだ。「自分たちが興味を持ち、やりたいと思うことを、楽しみながらやっていることが良い結果を生んでいるのでは」と笑顔で語る。自分の思いや考えが、たとえばロボットのような目に見える「かたち」になる。改良を加えることで「かたち」は変化し、そこに大会で競うというゲーム性も加わる。それらを「楽しんでいる」のだと言う。

生徒たちの声を聞くと、「なかなかうまくいかず、試行錯誤の繰り返し」「勉強と部活、習い事との両立が大変」と語りながらも、「コミュニケーション力がついた」「進路に対する意識が高まった」など、前向きな言葉が続く。また、「計画性を持って活動することや、時には大きな壁に直面しながらも最後まで諦めずに仲間と協力し、信頼し合う大切さを学ぶことができました」と話す生徒もいる。誰かに強制されるのではなく、「楽しいから」と自分たちが率先して取り組んでいる活動だからこそ、結果が出ているのだろう。

理系・文系の垣根なくフレンズ・ファブに生徒が集まる理由の一つには、同校の「人格形成を重視し、幅広く教養を身につけてほしい」という教育理念もあるのだろう。理系・文系を早くから分けず、全員が高1まで「物理」「化学」「生物」を学ぶ。選択の幅を狭めすぎないことで、生徒が持つ可能性は広がる。「文理選択前にも、豊富な実験などを通して、自然科学の面白さを伝える理科教育を実践している」(加藤先生)ことも、文系志望の生徒が抵抗なくファブに入ってくる要因かもしれない。

「理科や数学は苦手だけれど、プログラミングは面白いと感じる生徒もいるはずです。自分では気づいていなかった興味や可能性を、自ら発見できるような機会や取り組みを増やしていきたいと思っています」(池田先生)

そうした先生方の思いが、「楽しみながら、結果を出す」というフレンズ・ファブの活動を後押ししている。

  • ロボット競技会FIRST LEGO LEAGUE(FLL) アメリカのNPO法人「FIRST」とデンマークのLEGO社が連携して開催している世界最大規模の国際的なロボット競技会。対象は9歳から16歳まで。世界98カ国、4万チームが参加する。