私立中高一貫校

教科横断的で創造的な学びを取り入れ
新しいことを企画し、挑戦していける人を育てる

玉川学園中学部・高等部

創立以来、「全人教育」を教育理念としている玉川学園は、幼稚園から大学・大学院までがワンキャンパスに集まる総合学園としての環境を活かし、最先端の研究・技術に触れて実践的に学びながら、創造的で国際的な科学技術の未来を担う人材を育成している。そんな同学園が近年取り入れたのが、「STEAM教育」という教科横断的な学びだ。同学園の学びがめざすものや、「STEAM教育」における最近の取り組みなどについて、中学部長の中西郭弘先生と美術科主任の瀬底正宣先生に聞いた。

美術科主任の瀬底先生

触れて、感じて、表現する―「経験」から得る学びを大切に

「全人教育」を教育理念とする玉川学園は、61万㎡の広大なキャンパスに幼稚園から大学・大学院までが集まる総合学園。そうした環境を生かし、最先端の研究・技術に触れて実践的に学びながら、創造的で国際的な科学技術の未来を担う人材を育成している。

2008年からはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されており、一昨年3期目の指定を受けた。また、2007年からは、世界中の大学への入学資格を得ることができる「国際バカロレア(IB)プログラム」を導入している。

中学教育で特に重視しているのは「経験」だ。中学部長の中西郭弘先生は、「深み・丸みのある大人になるために、授業はもちろん、クラブや委員会活動など学校生活のあらゆる場面で、生徒が“触れて、感じて、表現する”ことを大切にしています」と話す。

そんな玉川学園が取り入れた「STEAM教育」も、そうした要素が盛り込まれている。「STEAM」とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の頭文字を取った言葉。これらの分野の融合教育であるSTEAM教育は、2000年代になってから、まずアメリカの教育現場で強く推進されるようになった。

そうした「STEAM教育」の可能性を模索してきたのが美術科だ。例えばIBクラスの美術の授業では、身に付けられるアートを、3Dソフトを使って作成し、3Dプリンターでプリントアウトする取り組みをした。この授業ではまず、動植物などをデッサンして、自分なりに自然の中にある美の要素を抽出。次に古今東西の文化から、興味ある時代を調べ学習し、身に付けられる装飾品の形を選ぶ。その後、自分が抽出した自然の中の美と、選んだ装飾品の形を掛け合わせ、独自の「WEARABLE ART」を発案するのだ。それを制作するに当たり、パソコンで3Dソフトの使い方を練習し、実際に制作する。さらに、制作後には実用性と装飾性の議論などを行う。

同学園がこうした「STEAM教育」に力を入れる目的は何か。それは、デジタル機器が使いこなせる技術者を養成するためではなく、現在どんなテクノロジーがあるかを知り、それを活用して、自分の進む職業などで創造性を発揮できる人を育てるためだ。また、同学園の美術科では、以上のようなSTEAM的な作品制作と、従来からある絵画や彫刻のような手作業で行う作品制作の両方が必要であるという考え方に立って、授業を展開しているという。

半分がオンライン、半分が登校しての合同授業
個別に生徒の提出物をオンラインで確認

3Dプリンターなどを揃えた「Art Lab」は生徒が自由に集まれる場所

「STEAM教育」に取り組みはじめたきっかけについて、中学の美術科主任の瀬底正宣先生は次のように説明する。

「実は、STEAM教育に取り組もうとして始めたわけではないのです。本学園の美術教育の考え方が変わったのは、IBクラスの設置がきっかけです。IBクラスの教育は、教科横断的で、いろいろなところにアートがかかわってきます。美術教育も、これまで日本の学校で行われてきたものとは異なり、生徒の作品そのものを評価の対象とするのではなく、そこに至るプロセスで何を考え、どういうことをリサーチし、どう表現するかという流れを記録し、それを評価します。つまりIBクラスの美術教育は、美術の素養を広げるために行われるのではなく、社会に存在する問題点を見つけ、それに対する答えを出していくトレーニングのために行われているのです」

2019年4月には、瀬底先生らが中心となって、「Art Lab」と呼ばれる工房を工作室の一角に設けた。もともとあった各種の大型電動工具に加え、この「Art Lab」には新たに3Dプリンターやレーザー加工機といったデジタル・ファブリケーションを設置。この「Art Lab」には、希望する生徒たちが昼休みや放課後に自由に集まり、玉川学園の創設以来の伝統である「労作」などに取り組む。「労作」は、玉川学園の創立者である小原國芳が掲げた「全人教育」の根幹として、大切にされてきた教育の一つだ。生徒たちは自主的に参加し、学園内の施設や庭造りなど、さまざまな活動を行ってきた。参加することにより、一つの教科ではくくれない多様な学びをできるのが、この「労作」の利点でもある。

たとえば、「労作」の一例として、「TAMA TREE プロジェクト」がある。学園内の環境整備で間伐した木材を製材して、木製の玩具やテープカッター・椅子などを作り、玉川学園の幼稚部等へ贈呈するなどといった取り組みだが、パーツの切り出しや、ロゴの焼印などは、「Art Lab」のレーザー加工機で行った。

トライ&エラーを繰り返しながらArt Labで生み出された作品

3Dプリンターを活用したオンライン授業で創造力とチャレンジ精神を育てる

 コロナ禍の今年は、3月から生徒が学校に登校して授業ができない状況が続いたが、玉川学園では4月からオンラインでの遠隔授業を開始した。

「オンライン授業は生徒も教員も戸惑いながらのスタートでしたが、4月からは独自のネットワークからインターネットに移行することが決まっていたため、生徒は早い段階で自らGoogleのアカウントを取得。それに助けられてGoogle Meetを利用したオンライン授業を開始することができました。6月に分散登校が始まってからは、クラスの半分が教室で、残り半分がオンラインでという授業スタイルになっています」と、瀬底先生。高3生向けの立体造形の授業では、3Dプリンターを活用したオンライン授業を実施したという。ブラウザ上で動作するオートデスク社の初心者向け3Dデザインソフトで生徒が物品をデザインし、そのデータを学校の3Dプリンターに送って出力する。3Dデータの作成方法などは、あらかじめオンライン授業で指導した。今回、生徒が制作にチャレンジした物品は、ネームタグとスタンプホルダーだ。

「データ上ではきちんとできて見えても、実際に3Dプリンターで出力してみると、うまく造形できないという生徒もいます。それがわかっていても出力して見せ、データ上ではできても、出力すると物理的制約を受けるということを生徒に体験させるのです」(瀬底先生)

その後、生徒たちは、何かの役に立つもの、動くものなどといったテーマから選択して制作する課題にも挑戦した。「失敗しても、データはすぐ直せるのがいいところです。トライ&エラーを何度も繰り返して、新しいものを作ることができます。そういう経験は、今後に生きてくるでしょう。クリエイティブな力を養うのと同時に、新しいことを企画し、そこに恐れなく挑戦していける人間になってほしいという思いで授業をしています」(瀬底先生)

オンラインの授業では学校にデータを送り3Dプリンターで出力

また、中西先生は中学教育の2つの目標について次のように話す。「一つめは深みのある大人になるために“触れて・感じて・表現する”活動を多く経験させること。そうした体験から感性が磨かれ、新しい発想が生まれる土台がつくられていくのです」そしてもう一つは、丸みのある大人になるために生徒が取り組んでいる“玉川しぐさ”だ。「これは玉川っ子としての粋な振る舞い(気が利いて即行動することや他人や社会全体を考えて行動するなど)のこと。先生にはそんな活動をいろいろな場面で、生徒たちには先生がいろいろな仕掛けを考えているので、ぼーっとしないでといつも言っています。STEAM教育など常に新しい教育を取り入れている玉川学園は将来への可能性を見つけられる学校です。色々な夢を描いている子どもたちにぜひ来てほしいですね」

卒業生の進路としては、例年約7割が玉川大学の学部・学科以外の研究分野を求めて他大学へ進学するが、そうした卒業生の多くがAO入試(2021年度より「総合型選抜」に名称変更)などを利用し、自由研究の取り組みが評価されて合格するケースが多いそうだ。そんな玉川学園が、「STEAM教育」という教科横断的で創造的な学びを取り入れたことで、卒業生の将来の選択肢は、これまで以上に広がっていくに違いない。

中学部長の中西先生